道具は口ほどに物を言います。
美しく弧を描くロッド、掌に吸い付くようなリール。それらは単なる道具ではなく、アングラーの感性を海中へと拡張する「神経」そのものです。
「東京湾でバチコンをやりたい」
そう思い立った時、多くのショアアングラーが最初に抱く疑問があります。
「手持ちのアジングロッドで代用できるのか?」
という問いです。
結論から申し上げましょう。
エリアによります。そして、場所を間違えれば、愛機を破損させるリスクすらあります。
東京湾は、穏やかな浅瀬から、川のように流れる激流の深場まで、全く異なる顔を持つ海域です。今回は、月下美人エディターの視点で、エリアごとの「適材適所」なタックル選びについて解説します。
1. 導入:東京湾は「一つの海」ではない
ショアのアジングでは、ジグヘッドの重さはせいぜい1g〜3gでしょう。
しかし、船からのバーチカルコンタクト(バチコン)では、10号(約37.5g)から、時には60号(約225g)という桁違いのオモリを背負います。
「船宿の予約時にエリアを確認すること」
これが、タックル選びのスタートラインです。自分の行くフィールドが、癒やしの浅場なのか、それともモンスターが潜む激流なのか。それを知らずに海に出ることは、丸腰で戦場に行くに等しい行為です。
2. エリア別攻略:ショア用ロッドの代用可否と推奨タックル
東京湾のバチコンフィールドは、大きく分けて3つのゾーンに分類されます。
Zone 1: 木更津・盤州方面(癒やしのシャロー)
- 水深: 10m〜15m前後
- 使用シンカー: 10号〜15号(約37g〜56g)
- 特徴:広大な浅瀬(シャロー)が広がるエリア。数釣りが楽しめ、バチコン入門には最適な「癒やしのフィールド」です。
- タックル判定:【代用可能 ○】この水深とオモリ負荷であれば、強めのショア用ロッド(フロートリグ・キャロ用など)で代用が可能です。7フィート前後の長めのロッドで、しっかりとバットパワーがあるものであれば、十分にアジとのファイトを楽しめます。
- 推奨:「月下美人 MX BOAT AJING 64L-S」さらに上位の「月下美人 AIR BOAT AJING 69L-S」もちろん専用ロッドがあればベストです。このロッドなら、浅場のアジの繊細な引きをダイレクトに手元で感じることができ、至福の時間を約束します。
Zone 2: 横浜・川崎・内湾エリア(スタンダード)
- 水深: 15m〜30m(最大40m)
- 使用シンカー: 15号〜25号(約56g〜94g)
- 特徴:東京湾奥の船宿がメインとする、最もポピュラーなフィールド。工場夜景を見ながらのナイトゲームもここに含まれます。
- タックル判定:【専用ロッド推奨 ◎ / ショア用は危険 △〜×】20号(約75g)を超えてくると、ショア用ロッドではティップ(穂先)が曲がりきってしまい、アタリを取る余裕がなくなります。また、抜き上げ時の破損リスクも高まります。悪いことは言いません。専用ロッドを用意してください。
- 推奨:こここそが、バーチカル専用設計の真骨頂です。25号のオモリを背負いつつ、ティップは繊細にアタリを捉え、バットで掛ける。「69L-S」が最も輝く主戦場と言えるでしょう。
Zone 3: 走水・観音崎方面(激流のモンスターエリア)
- 水深: 40m〜80m
- 使用シンカー: 30号〜60号(約112g〜225g!)
- 特徴:ここは別世界です。走水(はしりみず)沖は、東京湾のボトルネックであり、川のような激流が走ります。ビシアジ船(130号〜150号)がひしめく激戦区であり、強烈な潮流の中に40cmオーバーのギガアジ・テラアジが潜んでいます。
- タックル判定:【ベイトタックル推奨(68LB-SMT)】このエリアで最も重要な技術は、激流の中で「底を取り続けること(底ダチ)」と「正確なタナ取り」です。スピニングリールではベール操作が追いつかない場面でも、ベイトリールなら親指一つ(クラッチワーク)で瞬時にラインを送り出し、着底を感知できます。
【Expert’s Choice】橋詰大輔テスターの実践セッティング
東京湾を知り尽くしたダイワフィールドテスター・橋詰大輔氏は、この過酷なエリアを以下のセッティングで攻略しています。
- ROD:月下美人 AIR BOAT AJING 68LB-SMT
- 金属穂先「SMT」が、水深80mの底質や微細なアタリを鮮明に伝達します。激流の中で60号近い負荷がかかる場面でも、ベイト特有のパワーでねじ伏せます。
- REEL:ティエラ AIR IC 100XHL
- 「カウンター(IC)」が最大の武器。 船長の指示ダナ(例:底から3m)を、感覚ではなく「数値」で正確に直撃できます。
- 100XHL(エクストラハイギア)は、深場からの回収スピードを上げ、手返しを最大化します。
- LINE SYSTEM:
- Main Line: PE 0.6号(激流の抵抗を切る細さと、テラアジに耐える強度のバランス)
- Main Leader: 2.5号(約10lb。太軸フックに合わせて強めに設定)
- Sinker Line (捨て糸): 2.0号(約8lb。根掛かり時はシンカーだけが切れるよう、メインより少し細くするのが鉄則)
※この「PE0.6号+リーダー2.5号」という強気のセッティングこそが、走水の激流と巨大アジに対するプロの回答です。
3. 東京湾の主流!「逆ダン(サカサダン)」リグ解説
東京湾で標準となるのが「逆ダンリグ」です。
構造はシンプルですが、エリアによって「シンカー(オモリ)」のサイズだけが劇的に変わることを理解してください。
- 基本構造:
- メインライン(PE 0.4〜0.6号)
- リーダー(フロロ 2号〜3号)
- ハリス留め(必須アイテム)
- 捨て糸(フロロ 1.5号〜2号)+ シンカー
- シンカー選びの鉄則:必ず「10号〜60号」の幅で、行くエリアに合わせた号数を用意すること。1つだけでなく、潮の速さに対応できるよう前後の号数も持参するのがマナーです。
- ジグヘッド:0.3g〜0.5g程度の軽量なものを使いますが、フックは「太軸」を選んでください。ギガアジの上顎を貫き、強引なやり取りに耐える強度が必要です。

4. 【東京湾特選】ワームカラー&ジグヘッド選び
道具箱に忍ばせるべき「月下美人」の答え。
東京湾では、ショアよりも大きめの2.5インチ〜3インチのワームが標準です。
カラーローテーションの極意
- クリア・点発光(アミパターン)
- 推奨: 木更津や横浜エリア、澄み潮、日中。
- アミやプランクトンを捕食している場合、シルエットをぼかせるクリア系に、微細なラメや点発光が入ったカラーが圧倒的に強いです。
- グロー・強蓄光(闇の底へ)
- 推奨: 走水・観音崎のディープエリア(水深60m〜)。
- 光の届かない水深60m以深や、濁りのきつい時。ここでは「目立ってナンボ」です。強烈に発光するグロー系カラーは、深場のモンスターに見つけてもらうための命綱となります。
5. まとめ・チェックリスト
最後に、もう一度だけ確認させてください。
あなたが予約しようとしている船宿は、どのエリアに出船しますか?
船長に電話をする際、必ずこう聞いてください。
「オモリは何号を使いますか?」
その答えが「15号」なら、お手持ちの道具で楽しめるかもしれません。
もし「40号」と言われたら、迷わず専用タックル、特にベイトタックルの準備を。
適切な道具を選ぶことは、アジへの敬意であり、あなた自身の釣りの品格を高める行為です。
準備が整えば、東京湾の黄金アジは、すぐそこにいます。
