常夜灯の下、極細のラインを通して伝わるアジの微かなシグナル。 ショア(岸)からのアジングは、その繊細さと手軽さで多くの私たちを魅了してやみません。
しかし、心のどこかでこう思ってはいないでしょうか。 「もっと、痺れるようなサイズに出会いたい」 「豆アジ数釣りも楽しいけれど、ロッドをバットから曲げるようなファイトがしたい」と。
もしあなたがそう感じているなら、今こそ「オフショア(船)」へ視線を向ける時です。 今、東京湾を中心に爆発的な盛り上がりを見せている「バチコン(バーチカルコンタクト)アジング」。それは、私たちが培ってきたアジングの繊細なテクニックをそのままに、未知の領域(ディープエリア)へ挑む新たな扉です。
この記事では、ショアアングラーが次に目指すべきステージ、バチコンの基礎知識とその圧倒的な魅力について解説します。
バチコン(Vertical Contact)とは?仕組みを理解する
その名は「垂直接触」
「バチコン」とは、Vertical Contact(バーチカルコンタクト)の略称です。 キャストして横(Horizontal)に探るショアの釣りに対し、船から仕掛けを垂直(Vertical)に落とし、深場のアジとコンタクト(Contact)する。その名の通り、ダイレクトな操作感がこの釣りの真髄です。
ショアとの決定的な違い
ショアアジングとの最大の違いは、「水深」と「シンカー(オモリ)」の存在です。 水深数十メートル、時には潮の速いエリアを攻めるため、バチコンでは10号〜20号(約37g〜75g)といった重いオモリを使用します。
「そんなに重いオモリで、アジングの繊細なアタリが分かるのか?」 そう疑問に思うかもしれません。しかし、ここにバチコンの妙があります。
「重さ」の中に潜む「軽さ」
バチコンのシステムは、重いシンカーでリグを確実にボトム(底)へ届けつつ、エダス(枝糸)の先には0.3g〜0.5gといった極軽量のジグヘッドを使用します。
つまり、「リグ全体は重いが、魚が口を使う部分は驚くほど軽い」のです。 この仕組みにより、深場であってもアジに違和感を与えず吸い込ませ、手元には金属的とも言える明確なアタリを伝達することを可能にしています。これは餌釣りではなく、あくまでワームとジグヘッドで攻めるルアーフィッシングなのです。
アジングファンを虜にする「3つの魅力」
なぜ、多くのエキスパートたちがショアから船へと足を運び始めるのでしょうか。そこには、抗いがたい3つの魅力が存在します。
1. 夢のサイズ感(ギガアジ・テラアジ)
最大の魅力は、アベレージサイズの大きさです。 陸っぱりでは「尺アジ(30cm)」が一つの壁ですが、バチコンでは尺超えは珍しくありません。40cmを超える「ギガアジ」、時には50cmクラスの「テラアジ」と対峙するチャンスが、常に海面下に潜んでいます。ドラグを鳴り響かせる強烈な引きは、一度味わえば病みつきになることでしょう。
2. ダイレクトな操作感と「掛ける」喜び
深場だからといって、感度が鈍るわけではありません。 PEラインの進化と高感度ロッドの恩恵により、水深50m以深でも「フッ」とテンションが抜けるようなアタリや、「カツッ」という微細な接触を明確に捉えることができます。 違和感を感じ即座にフッキングを決める。その「掛けた!」という快感は、ショアアジングのそれ以上の純度かもしれません。
3. 食味の良さ(深場の金アジ)
釣りの後の楽しみも格別です。 特に東京湾の深場に居着くアジは、回遊型に比べて脂の乗りが別格で、黄金色に輝くことから「金アジ」とも呼ばれます。冷たい深海で育ったアジの刺身は、まさに絶品。自らの手で釣り上げた極上の食材を味わうのも、アングラーだけに許された特権です。
なぜ「東京湾」でバチコンが流行しているのか?
現在、バチコンの聖地とも言える賑わいを見せているのが東京湾です。これには明確な理由があります。
- 最適な地形と環境: 東京湾は水深20m〜50m前後のポイントが多く、バチコンが最も成立しやすい地形を有しています。また、周年を通してアジの魚影が非常に濃いエリアです。
- 「LTアジ船」との共存: 東京湾では古くから餌釣りの「LT(ライトタックル)アジ」が盛んです。近年、これらの船がルアーマン(バチコン)の同船を受け入れるケースが増え、手軽にエントリーできる環境が整いました。
- テクニカルな潮流: 潮の流れが複雑な東京湾は、単に落とせば釣れるわけではありません。潮を読み、タナ(水深)を探るゲーム性の高さが、探求心旺盛なアングラーの心を掴んで離さないのです。
これだけは覚えたい!バチコン基礎用語
船上でスムーズに釣りを楽しむために、最低限押さえておきたい用語を解説します。
- 逆ダン(サカサダン) バチコンの主流となるリグ(仕掛け)の一つ。メインラインの先端にジグヘッドを結び、その少し上のエダスにシンカーを接続する方式。「ダウンショットリグ」の逆転発想で、感度とフォール姿勢の安定を両立させたシステムです。
- ゼロテン(ゼロテンション) シンカーを着底させた後、ラインを張らず緩めずの状態(テンションをゼロ)に保つこと。竿先の曲がりが戻り、かつラインが弛みすぎない絶妙な状態をキープすることで、アジの繊細な吸い込みを感知します。
- ステイ ロッドを動かさずに仕掛けを止めること。ショアではアクションを加え続けることが多いですが、バチコンでは「動かさないこと」が最大の誘いになる場面が多々あります。潮の流れにワームを漂わせるイメージです。
- オマツリ 隣のアングラーとラインが絡まってしまうこと。軽いオモリを使ったり、潮に流されすぎたりすると発生しやすくなります。指定された号数のオモリを守り、サミングしながら真っ直ぐ落とすことがマナーです。
まとめ・次のステップ
バチコンアジングは、繊細なアプローチとダイナミックなファイトが同居する、アジングの新しい地平です。 ショアで培った感性は、必ずこの深場(ディープ)の世界でも武器になります。
「やってみたい」という好奇心が湧いてきましたか? 次回は、いよいよ実践編。「専用ロッドの選び方から、絶対に外せないワームのセレクト」まで、バチコンを始めるためのタックル準備について詳しく解説します。
月明かりの下ではなく、陽の光を浴びながらのボートゲーム。 愛用のタックルを手に、東京湾の海原へ漕ぎ出す準備を始めましょう。
