専用のロッドを手に入れ、リールには新しいPEラインを巻いた。 道具(ハードウェア)の準備は完璧です。
しかし、ショアアングラーにとって最大のハードルは、実はここから先にあります。 「船宿の予約はどうすればいい?」「車や電車でのアクセスは?」「常連さんの中でうまく立ち回れるだろうか?」
こうした「心の準備(ロジスティクス)」こそが、快適な釣行を約束する鍵です。 今回は、予約の電話から当日の乗船、そしてトラブル知らずのマナーまでを時系列で完全シミュレーション。これさえ読めば、あなたはもう「ビギナー」ではなく、一人の「スマートなオフショアアングラー」として港に立つことができます。
【Phase 1:予約】電話で聞くべき「5つの鉄則」
東京湾の黄金アジへのパスポートは、一本の電話から始まります。 最近はWeb予約も増えていますが、細かいニュアンスを確認できる電話が確実です。聞くべきことは、以下の5点だけ。メモの用意を。
1. 「バチコン(ルアー)での乗船は可能ですか?」
東京湾では、餌釣りの「LTアジ船」に同船するスタイルが一般的です。 船宿によっては「ルアー客は四隅(船の角)限定」などのルールがあるため、必ず最初に「バチコン希望」であることを伝えてください。
2. 「オモリは何号ですか?」
最重要確認事項です。
東京湾はエリアによって水深と潮流が激変します。横浜・川崎なら10〜25号、木更津なら7〜15号、走水なら40〜60号。指定された号数を持参することは、船全体の調和を守るための義務です。
3. 「集合時間は何時ですか?」
「出船時間」ではありません。受付や着替え、氷の受け取りを行うための「集合時間(受付開始時間)」を確認しましょう。通常は出船の1時間〜30分前です。
4. 【車で行く場合】「駐車場はありますか?」
港の目の前に停められるとは限りません。
- 場所: 船宿の前か、少し離れた場所か。
- 料金: 無料か有料か。
- 予約: 駐車場自体の予約が必要か。 これらを聞いておかないと、当日の朝、暗い中で車を停める場所がなくパニックになります。
5. 【電車で行く場合】「送迎はありますか?」
金沢八景や川崎などの船宿は駅から近いことが多いですが、徒歩だと距離がある場合も。
- 有無: 最寄り駅からの送迎車の有無。
- 場所: どの改札を出て、どこで待てばいいか。
- 時間: 定時運行か、駅に着いたら電話で呼ぶスタイルか。
【Phase 2:前日】準備と体調管理
リーダー結束は「自宅」で完了させる
揺れる船上、風が吹く中で細いPEラインとリーダーを結束するのは、ベテランでも至難の業です。 必ず自宅の安定した環境で、完璧なノットを組んでおきましょう。予備のリールスプールがあるなら、そちらも同様に。
最強の船酔い対策は「7時間睡眠」
どんな高価な酔い止め薬よりも効くのは、十分な睡眠です。 前日の深酒は厳禁。消化の良い食事を摂り、万全の体調で翌朝を迎えてください。
【Phase 3:当日朝】到着から受付まで
到着〜荷降ろしの作法
集合時間の30分前(出船1時間前)には現地へ到着しましょう。 車の場合、船宿によってルールが異なります。
- パターンA: 先に店の前で荷物を降ろしてから、駐車場へ移動する。
- パターンB: 先に駐車場へ入れてから、荷物を運ぶ。 勝手に停めず、スタッフの指示に従うのがスマートです。
受付と「氷」の確保
乗船名簿に記入し、料金を支払います。 この時、「氷(または氷引換券)」を受け取るのを忘れずに。黄金アジの鮮度保持は、この瞬間から始まっています。
【Phase 4:釣り座確保】運命の席選び
釣り座(座る位置)の決め方は、船宿独自のシステムがあります。
- 先着順(キャップ制): 店先のボードから番号札(ペットボトルのキャップ等)を取る。
- 受付順: 受付をした順に好きな席を選ぶ。
- 船長指定: 「ルアーの方はここに入ってね」と指示される。
バチコンの特等席は「四隅」
オマツリ(ライン絡み)のリスクが最も低く、広範囲にキャストできる「ミヨシ(船首)」や「トモ(船尾)」の四隅がバチコンの指定席となることが多いです。
魔法の言葉
もし席選びで迷ったら、船長にこう伝えてください。 「初めてなので、バチコンがやりやすい席を教えてください」 プロに任せるのが、最も安全で確実な方法です。
【Phase 5:乗船&マナー】スマートな振る舞い
挨拶がトラブルの9割を防ぐ
釣り座に着いたら、必ず両隣の方に声をかけましょう。 「おはようございます。隣に入ります、バチコンです。ご迷惑おかけしないよう気をつけます」 この一言があるだけで、万が一オマツリした際も「お互い様ですから」と笑顔で解決できます。無言はトラブルの元です。
【最重要】オマツリ対策の原理原則
なぜ、船釣りではオマツリが起きるのでしょうか? 特にLTアジ船(餌釣り)と同船する場合、以下の「構造的な違い」を理解してください。
- 原因:
- バチコン(あなた): シンカーを「ボトム(海底)」に着底させてステイ。起点は「底」です。
- LTアジ(餌釣り): ビシ(カゴ)を「ボトムから2〜3m」浮かせた状態で待機。仕掛けは「宙層」にあります。
- 結果: 船が風や潮で流れると、底に固定されたあなたのラインが斜めになり、宙層にある餌釣りの仕掛けと交差(クロス)してしまいます。
- 対策:「面倒がらずに回収(入れ直し)」 自分のラインが斜めになってきたら、それは危険信号です。 すぐに巻き上げて、落とし直してください(入れ直し)。 「面倒くさい」と思って放置するのが一番のマナー違反です。こまめな入れ直しは、新しいポイントへのアプローチになり、アジのリアクションバイトも誘発します。 釣果アップとトラブル防止、一石二鳥のテクニックだと心得ましょう。
【装備】身を守るもの、魚を守るもの
2月の東京湾は極寒
海上の体感温度は、陸上よりも5℃以上低いと考えてください。 完全防風のアウターはもちろん、「使い捨てカイロ」を足の甲(靴下の上)と腰に貼るのがプロの防寒術です。寒さは集中力を奪います。
「黄金アジ」への敬意(クーラーボックス)
東京湾のアジは、脂の乗った「黄金アジ」と呼ばれるブランド魚です。これを最高に美味しく食べるために、クーラーボックス(20L〜30L)の管理を徹底しましょう。
- 海水氷(潮氷)の作成: 釣れたアジを氷の上に直接置くのはNGです(身が焼けます)。 氷に海水を注ぎ、キンキンに冷えたシャーベット状の「海水氷」を作り、そこへアジをドボンと入れて即死(氷締め)させます。これが鮮度を保つ絶対条件です。
船酔い対策のアネロン法則
船酔いが心配なら、定番薬「アネロン」を乗船の30分前に服用してください。乗ってからでは遅いです。「飲んだから大丈夫」という安心感も、効能の一つです。
まとめ
予約の電話、アクセスの確認、そしてオマツリのメカニズム。 これらを知った今、あなたの心から「漠然とした不安」は消え去ったはずです。
準備は整いました。あとは、東京湾の風を感じ、ロッドを握るだけ。 次回はいよいよ最終章。ショアの常識を覆す「実釣編:ゼロテンションと誘いの極意」で、バチコンアジングの核心に迫ります。
